歯車がずれて回らない時のようだ。油を差してもどうにもならない。ずれてしまっているのだから、それを嵌めてやらなきゃならない。
ぎこぎこと、自転車のペダルを掴んで逆に回してみる。ぎち、とかがち、とか、音を上げながら、チェーンが無理矢理にはまっていく。ぼうっと、ただ僕はペダルを逆に回していた。
音がなくなってしまったことを想像したことはないだろうか?
人間というのは複雑に出来ているもので、ある日、突然目が見えなくなったり、音が聞こえなくなったり、声が出せなくなったりする。腕や脚や、臓器が動かなくなることだってある。
その中のほんの一環で、音が聞こえなくなることを想像したことがないだろうか。
そういえば、あの頃……と、クッションが破けてボロボロになっているヘッドホンを、ゴミの山から引き摺り出した。綺麗に拭いて、消毒をして、有線のプラグを……挿す場所を探した。
俺が今聞きたい音楽はどこにあるんだろうか。
空の中に音が鳴る。風の音だ。先程聞いたギコギコという自転車の回転音だって聞こえていた。耳に届かなくなったわけではない。なのに、ふと、「無音の世界で生きたくはないな」そう思ったのは何故なんだろう。
行き場を失ったヘッドホンを両手で持ったまま、ただ呆然と立ち尽くした。