-Beyond the end credits-
火を点けなかった煙草は、さっさとデスクに放り投げた。
ナギが出ていった後、どちらともなく腕を伸ばして、そのまま無茶苦茶に唇を合わせた。
我慢できないと言っていた三月が大和にしがみついた時、若干の痛みを感じたが、それでも、それさえも気分が良い。求められている感じがする。
角度を変えて何度も唇を合わせる。つうと伝った唾液を指で拭ってそのまま、三月のシャツを開く。もつれ合うようにベッドに倒れ込んだ。
「舐めた方がいい……?」
何のことかと思えば、突然目の前にちらつかされた棒付きキャンディを大和が見下ろす。
「これ、新しい抑制剤。今日、まだ舐めてないんだ。でも、興奮したらさ……あんたは病み上がりなのに、オレ、多分止められなくなっちゃうから……」
抑制剤を飲むと、その後暫くぼんやりとする。それが嫌だと三月は何度も言っていた。それでも、大和がいない間、しっかりと抑制剤を摂取しているようだとナギから聞かされていたのだ。
大和は、組み敷いている三月の頭をくしゃくしゃと撫でる。
釦を外したシャツは、大和の肩から滑り落ちた。
「ミツ、今興奮してる?」
「してるよ」
キャンディはベッドの隅に放られてしまった。
その三月の手が、大和の手を絡め取る。そのまま三月の下半身に誘われた。されるがまま触れてみれば、完全に勃起した三月の性器がスラックスの布地を押し上げていた。
「苦しそうじゃん」
大和は、三月の手を握ったまま小指を立てて、三月の性器の形を確かめるようにつつつとなぞった。三月が、ぴくっと体を震わせる。
「ん、あっ」
「……今抑制剤舐めたら、お前さん、萎えちゃうんじゃねぇの? 気持ち良くなれないじゃん」
「いいよ、そのくらい……訳わかんなくなって、あんたのこと傷付けたくないから……」
「今更だなぁ」
「い、今更だからだよ……!」
興奮と困惑で涙目になった三月の瞳が、どろりと大和を見上げる。
「今更だけど……オレ、大和さんのこと、どうでもいいと思ってたわけじゃねぇよ……」
大和は、くいと三月の顎を持ち上げる。そのまま掬うようにして優しく口付けた。
「……俺だけ特別感あって良かったけど」
「は……?」
「警察の身内は傷付けたくない、迷惑掛けたくないって言ってるのに、俺は例外なのさ。特別? っていうか、俺だけが独占できて、良かったけど」
三月が大和の首に腕を回し、そのまま頭を上げて口を舐めた。口元が笑っている。
「はっ、相変わらず歪んでんなぁ……」
「そう?」
「良いけどさ、なんかMっぽくて」
「Mはお前だろ」
三月のベルトを外して、スラックスのホックを開いた。ファスナーをわざとじりじり下げてやる。先走りの露でびしょ濡れになった三月の性器が、下着までも濡らしていた。
「なぁ、抜いた?」
「……抜いてない。興奮することなかったし……あ、でも」
下着ごと脚から抜かれるスラックスを見ていた三月が、ぼんやりと天井に視線を移す。閉められているカーテンの隙間からは、薄明かりが入り込んできらきらとしていた。
「尻、に」
「……尻?」
「指入れたけど」
三月の溢す露が、股を伝ってシーツに染みを作る。
下着もろとも脱がされた三月が、足の爪先で大和の股間をなぞった。親指と人差し指の先で執拗に形を確かめてくる。むくりと主張を始めた大和のそれを、三月は足の裏でぐりぐりと押した。
くっと大和の喉が震える。だから、少し意地悪をしたくなった。
「それ、やってみてよ」
「えー……大和さんのこれあんのに?」
ぐりぐりと足先で焦れったく擦られ、大和は自分のベルトの金具を外した。つい舌打ちをする。
しつこい三月の足を持ち上げ、そうして太腿を開かせた。
「どこに指挿れたって?」
「……んー」
暫く思案して、三月が自分の薬指と中指をちゅぱと口に咥えた。引き抜けば、三月の指先につうと唾液の糸が伝う。
そのまま、勃起している自分の性器の奥に指を滑らせた。
自身の先走りでぬめるそこに、三月は自身の指を埋めていく。仰向けになっているから腰を持ち上げないとうまく入っていかないらしい。よっと尻を持ち上げた三月は、自分の尻穴が指を飲み込んでいく様子を性器越しに見ていた。
三月を見下ろしている大和からすれば、そんな風にされれば全てが丸見えになってしまう。思わず、生唾を飲み込んだ。
そして、それが「恥ずかしい」ということに、三月もようやく気付いたのだろう。
「……あれ」
指を止めた三月の瞳を大和が見つめると、頬を真っ赤に染めた三月が、わなわなと口を震わせた。
「や、その……違う、よ……? オナったわけじゃなくて……」
「じゃあなんで指挿れたんだよ? 恋しくなっちゃった?」
三月は慌てて指を引き抜いた。僅かに開いたままの尻の穴が、ぱくと震えている。
「……俺の、挿れて欲しくなっちゃったんだ……?」
大和がそう問えば、三月はぱっと自分の腕で顔を隠す。けれど、顔を隠したまま小さな声で囁いた。
「……ほしい」
「何?」
「……いれてほしい、の……大和さんの」
入院している間に溜まりに溜まった欲望が性器の先から滲んでいる。それを軽く扱いて、思わず舌なめずりをした。
すぐに硬くなった単純な自分自身を、精液に塗れている三月の尻の穴にあてがった。先程まで指を甘噛みしていたそこが、新しい質量に悦んで食らい付く。
「や、はや、く……」
吸い付かれるまま勃起した性器を埋めていくと、三月の脚が、大和の胴体に絡んだ。
抑制されてない力加減に、大和の腹の傷痕がぎゅっと痛む。それでも、大和は歯を食いしばりながら、ぐちゃぐちゃに濡れている三月の内側を開いていく。
まだ挿れたばかりだと言うのに、三月が白い喉を仰け反らせてぴくぴくと震えた。長い睫が震えて愛らしい。
「……ハッ、ん、ん……」
「ミツ、もうナカ、イっちゃった……?」
びくんびくんと大和の性器に吸い付く内壁を、更に奥まで突き上げる。かくかくと震える三月の腰を撫でて揉んでやると、それもまた気持ちが良いのか、三月の肢体がシーツの上で踊った。
「や、ちが……っ、イってない、も……アッ!」
「うっそ、めちゃくちゃ締めてくる……挿れたばっかなのに……」
シーツの上に、ぴゅっと三月の精液が飛んだ。早くもふやけている玉をやんわりと揉んでやると、三月の体が逃げよう逃げようと仰向けのまま這い擦っていた。
大和は三月の頭の横に肘を突いて、覆い被さるような姿勢を取る。これで逃げられない。体温で曇る眼鏡を外して、ベッドの隅に放った。
三月の腰を折るようにして、上から挿入を続ける。プレスされては大和にしがみ付くしかない三月が、涙を流しながら頭を左右に振った。
「あっ、やだ、やっ」
そのまま、速度を落として、じっとりと抽挿を繰り返す。
やだやだと首を振る三月の口を無理矢理捕まえて、噛み付くようにキスをした。実際噛んだ。歯の隙間から舌を引きずり出して、唾液を吸い上げる。耳に、ぐちゃぐちゃと水音が木霊する。下半身に伝わる粘液の感触と合わさって、頭の中がぼんやり揺れる。浮遊感に目を細めた。
水の中で抱き合ってるみたいだった。外界の音が遠くなる。
ぐちゃぐちゃと三月の中を抉っていると、その内何度目かの絶頂を迎えた三月の性器が、精液で三月自身の胸を汚した。
ぎゅうと締め付けられ、大和もそのまま三月の中に射精する。それを三月の内側が吸い上げようと収縮しては、結局行き場をなくして尻の隙間から溢れ出た。女の体と違って行き着き先なんてない。溢れた精液を股間に塗り込めるように押し付けて、体を揺らす。
三月が「抜いてよ」と駄々を捏ねたが、言うことは聞いてやらない。今が気持ち良ければそれで良い。
「や、だ……溢れて……もれちゃう……」
「今更だろ。お前さん、びっしょびしょなんだから」
大和は体を起こして前髪を掻き上げると、抜かないままで三月の体を裏に返した。
「ベッド、壊すなよ……」
そのまま覆い被さって再び深くまで突き上げると、三月の肘が大和の腹に入った。このままでは本当に傷が開きかねないと思いながら、それでも腰を前後させるのを止められない。
汗にまみれている三月の背中を手の平で拭って、そのまま背後から胸を揉む。ほどよく筋肉の乗った胸の感触を楽しみながら、ぴんと立ち上がっている乳首を摘まんだ。こねこねと潰すと、ベッドと大和の間で板挟みになっている三月がくねりと腰を振る。
「やっ……もぉ……っ! はっ、おかしく、な、りそ……っ」
「もうおかしくなってんだよ……もっとおかしくなればいいだろ……?」
そう言って、もう片方の手でびんびんに勃ったままの三月の性器を扱いてやった。
「や、あっ……あ」
出し切ってしまったのか、性器からは何も出ないが、大和を咥えている内側がびくんびくんと反応を返す。中イキを繰り返して泣いている三月の首に、大和はちゅうと吸い付いた。
「かっわいい……」
汗が滴る。胸を伝って、三月の背中に落ちる。このままずっと折り重なっていたい。そんな永遠を望み始めた刹那、絶えず前後させていた腰が、自分の意思とは別に動きを止めた。
三月の背中に唇を当てて、ぎゅっと抱き締めた。逃がしたくなかった。
目を閉じると、目の前がかぁっと白む。途端に、脳がぐらんと揺れた。何にも代えがたい絶頂感を十分に噛み締めてから、大和はのそりと目を開ける。
「……ヨ、かったぁ……」
「なぁ、満足したら出してよ……もう、べちゃべちゃ……」
「べちゃべちゃなのは、大体いつもお前のせいだろうが……」
シーツがガビガビにならない内に剥がして、ぬるま湯に浸けたい。けれど、三月のナカからは出たくなくて、三月のことを背後から抱き締めたまま、大和は体を横に倒した。
「なっ……なぁ、抜いてよこれ! ヤダ……」
「なんで? 感じちゃう?」
「うう……気持ち悪い」
「ひでぇ……」
大和はつい眉を顰め、三月の耳元でわざと溜息を吐いた。
それを聞いて、三月がへらへらと笑う。
大和は枕の下にすっ飛んでいた棒付きキャンディを手繰り寄せると、その包みを解いて三月の口に突っ込んだ。れ、と舌を出した三月が、渋々それをしゃぶる。
「効く?」
「んん、効く……前より倦怠感もない、と思う……」
「……じゃあ、もしかしてだけど」
「んー……?」
「これがミツを抑えてくれるならさ」
大和が三月の口からキャンディを抜いて、寝転がりながらぼんやりとそれを見つめた。緑色、メロン味なんだろうか。
「……俺って、お払い箱だったりする……?」
大和の腕の中の三月が、突然固まった。
そして、腰を浮かせて、尻に入ったままの大和の性器を抜き、そのままゆっくりと振り返った。三月の尻からは、大和の精液が伝っていた。
「……なぁ、本気で言ってんの」
大和は、キャンディの棒を人差し指と親指でくるくる回す。
「本気で言ってんのかって聞いてんだよ」
それを三月が奪い取って、口に突っ込んだ。ばきんと飴が砕ける音がした。何も絡む物がなくなった棒をこれ見よがしに口から引き抜いて、三月が放る。そのまま、ぼんやりとしている大和の鼻を摘まもうとする。
「やめろって。本気だったらどうなんだよ」
「バカ!」
は? と思っている間に、本当に鼻を摘ままれた。
「いって!」
「もう! 言えよな、俺から離れるなって……! 警察戻らないでって言えよ、言ってみろよ、バカ!」
大和は、唖然として、摘ままれて赤くなった鼻を拭う。その向こうで、三月が口をへの字にしていた。言葉が出てこない。
「お払い箱にしないでって、どうして言えねぇんだよ……」
「だって、こんなのさ……変だろ。俺のところにいて欲しいなんて……ミツには、ちゃんと戻る場所、あんのに」
あまりに弱々しい声に、大和は目を逸らしてシーツを見つめている。
だんまりに耐えられなくなったのか、三月がもそりと口を動かした。
「こんなに体の相性良くて、戻れるわけねぇじゃん……」
それを聞いて、大和は頬を緩めて笑った。
「……なんだよ、結局体目当て?」
冗談みたいに言う大和に、三月はするりとシーツに頭を擦り付けた。
「それもあるよ」
「あるんだ……」
「……だって、生きてるあんたが、まるごと全部好きなんだもん」
躊躇いがちに呟かれた言葉に、大和はぱっと目を見開いた。
お互い、体だけが目当てだったらどんなに良かったか。かぁっと頭が熱くなる。それを、ひらひらと手で扇いだ。
「だから、お払い箱かどうかなんて聞かないでよ、大和さん」
そんな三月の懇願に、大和は息を飲んだ。
けれど、意を決して言葉を発しようと口を開き掛けた大和の耳に、バイクの音が聞こえた。三月にも聞こえたらしく、頭を上げる。
「あれ、ナギの奴、もう帰ってきた?」
「いや、ありゃあ郵便のバイクだろ? また請求書か……?」
それを聞いて、三月がばーんと大の字になる。
「あーあ! オレ、もう一歩も動けない。大和さんがポスト見てきてよ。ついでに、今日の飯当番も大和さんな」
「ったく……」
言い逃した言葉が喉にうろつく。もやもやとする。そんなもやもやを物理的に訴えたくて、大和は三月の尻を叩いた。
「いったぁ!」
「まぁ、結構無茶しましたし? 今日くらいは請け負ってやらないこともないけど。もし、ミツが……」
ぷいと顔を逸らす。
「ミツが、この先も所長補佐でいてくれんならさ」
顔を逸らしている大和の耳が赤い。
隠しきれていないその熱に、三月がふはっと柔らかく笑った。
【 Lollipop DeadEND 終 】