コネクション:MAX


「今年のオレは、余裕のあるどっしりとした男を目指すから」
藪から棒にそんなことを言われ、大和は思わず首を傾げた。大和の部屋のベッドの上で寛いでいる三月が、意味ありげな表情で大和の方を見ている。
「急になんだよ。まぁ、応援するけど……」
「大人の余裕ってやつを持つ! あと大人の色気とかをだな」
「随分と大人にこだわるじゃん」
「……オレだって色々考えるんだよ」
ふーんと気のない返事をしてしまう。リクライニングチェアから天井を見上げて考える。三月が言う大人の余裕とは一体何を指すのか、それに思いを巡らせていた。
(俺は、そういうの考えることもやめちまったな……)
大和さんは、身軽になったように見えます。そう言っていた壮五の言葉を思い出しながら、大和はそっと眉をひそめた。
その内、三月の視線を感じてゆっくりを顔を向ける。
「……何? 大人のお兄さんに、なんか聞きたいことでも?」
少しだけ、おちょくるようにそう問えば、三月は表情を変えないまま頷いた。
少し前は、こんな風に三月に対して大人ぶって見せて、おちょくっていたなと思う。今となってはどちらが子供かわかったものではない。三月は気にしていやしないだろうが……甘やかされている頻度は圧倒的に大和の方が多いのだから。
「頷かれても、俺がお前に教えられることなんかないよ。ミツだってわかってるくせに……」
「立ち振る舞いとかは、あんたの方が大人っぽいもん。それに、やっぱり落ち着いて見えるじゃん?」
「そ、そう……? ミツから見てもそうなんだ?」
「オレから見たら、まぁ……」
言葉を濁している内、両手をぱーっと開いた三月に、大和はつい吸い寄せられる。ふらふらとベッドの方に向かって、三月の体にダイブした。
ふはと笑った三月が、大和の頭を撫でる。
「まぁ、その……なぁ?」
「……つい、反射で」
「そんな反射があるかよ」
笑いながら背中を撫でられ、のそのそと三月の体に乗り上がる。
「おー?」
三月が着ているタートルネックのセーターの裾を持ち上げる。オーバーサイズのそれに頭を入れてみたい欲求が勝って、インナーの上から三月の腹にキスをした。
「うはは……っ、くすぐって……!」
鼻先でインナーをたくし上げて、素の肌に頬を擦り付けた。三月の下半身がぴくんと跳ねた。
「あ、う……?」
もぞもぞと大和がセーターの内側で動いている内、三月がそんな大和の頭をセーター越しに撫でる。
「す、する……?」
「んー……」
日付は一月一日、新年パーティの片付けを終えた夜の深い時間。明日は確か、仕事始めのメンバーもいるはずで……頭の中で、三月と自分のスケジュールを照らし合わせる。
「あー……でも、まだ元日か……」
「まだ? いや、日付的にはもう二日になるだろ?」
「そうじゃなくて」
仕方なく、セーターから頭を出す。頬を上気させて不思議そうな顔をしている三月の瞳が揺れた。きょとんとしていて可愛らしい。
「一月一日にすると、神様の反感買って連れ去られるみたいな話あるよなぁ……」
「何が? 姫始め……?」
「そうそう」
顎を撫でながら薄ぼんやりした記憶で言えば、三月が呆れたような顔で大和を見上げる。
「あんたって、やたら色々知ってるよなぁ……」
「そうか? まぁ、神様に連れ去られるってなんだよって感じだけど……こういう職業だと多少の験は担いだ方が良いだろ?」
「こういう職業で、元日からセックスするのもなんだけどな……」
「……ごもっともで」
三月の乱れたセーターの裾を直してやりながら、ぐっと押し黙る。ぽやっと大和の大和の手元を見ていた三月が何か考えるように「うーん」と唸った。
「けど、オレらってさ、神様がダメですって言ったら別れんの?」
「わ、別れねぇよ! 何縁起でもないこと言ってんだ、お前は!」
「……じゃあ、別にいいんじゃない?」
「何が」
三月がだらんと広げていた脚を引き寄せて大和の股間を指先でつうっとつついた。ぎょっとして、けれど、そのぎょっとした態度を表に出さないように口を結び、目を閉じる。それでも三月の足先は容赦なく大和の物の形を確かめるようになぞってくるもので――目を閉じてると余計に感覚が研ぎ澄まされてしまって良くない。大和は慌てて目を開けた。眼鏡のブリッジを上げる。
「す・け・べ」
「す、スケベはお前だ、お前!」
ぴくんと太股が震える。辿々しく動く三月の足の力加減と言ったらもう
(た、たまんねぇ……)
喉奥が、くつと鳴った。思わず固唾を飲む。
「あ、あのな、ミツ……」
じりつく喉元を抑えながら視線を上げれば、そこには、ゆうるりと目を細めて悪戯っぽく笑っている三月の表情があった。
「大人のお兄さーん、教えて欲しいなぁ~、なんちゃって」
「そういう意味で大人目指す感じなら、お兄さん応援できないけど……?」
「オレがエロい方が嬉しいだろ?」
「う、嬉しくない! 嬉しくないから! 仕上がってるより、ウブな反応の方がそそる!」
「そんなことないくせにぃ」
三月の足が止まる。焦れったいのに、三月はのそりと体を起こし、大和の肩に手を突いた。
先ほどの溶けるような瞳は何処へやら、今の三月の目は、鋭く尖っている。
「れ……?」
「……そんなことないだろ」
「え……っとぉ?」
間抜けに開いている大和の唇に、三月が唇を合わせる。ねっとりと角度を変えて啄まれ、思わず、ぱちくりと瞬きをした。ちぱと離れた唇をそのまま頬に当てられて、どこか――いつもと様子が違う。
「手慣れてる遣り取りの方が好きなくせに」
「い、いや、俺、好きな子は自分で仕込みたいタイプ……」
「嘘つけ、どうせオレは」
そこで、三月がはっと背中を向ける。
「あ、おい!」
大和は思わず、その背中をがばりと引き寄せた。ぎゅっと抱き込んで、三月の肩に顎を乗せる。
「……今年のオレは、こういうのはやめるんだった……」
「び、びっくりした……なんだよ、何」
少し、まだ胸がドキドキしている。三月の背中に伝わっていないかと不安になる一方、体温の上がっている三月を抱き締めているのが大変に心地良い。
「手慣れてる遣り取りってなんだよ……どういう意味。説明しろよ。演技とか、八つ当たりみたいなキスされても嬉しくねぇし……」
「八つ当たりじゃねぇよ!」
「じゃあなんなんだよ! あと、お兄さんのお兄さんが痛い……」
「先に抜いとく……?」
「抜いたら喋らないつもりだろ……」
ぎくーっと三月が縮こまった。大和は溜め息混じりに三月の肩を撫でつつ抱き締めたまま……腰を押し付けたままで続けた。
「だって、エロっぽい遣り取りしてると楽しそうだから……」
「はぁ? 誰と?」
「それは……」
ごにょごにょと口をもごつかせた三月が、突然暴れ出した。
「だーっ! そんなこといいんだよ、どうでも!」
暴れる三月の肘が大和の鳩尾に入る。ぐっと呻きながら、それでもなんとか三月をベッドに伏せさせ、圧を掛けた。ベッドと大和の間に板挟みになった三月は、仕方なしに静かになる。
「三月サン……大人の余裕はどうしたんですか……」
「そ、そんなもにょ……」
押さえつけられたままでは話し難そうだったが、それでも今三月を離したら、恐らく脱兎の如く部屋を出て行くに違いない。可哀想だが、解放してやることはできなかった。ついでに、下半身が三月の尻に当たるのは不可抗力だった。
「……オレ、もうやきもちでもモヤモヤしたくねぇの……」
「は?」
「きり、ねぇから……だから、余裕……とか、どっしり構えてたいとか……思うんだけどさ」
ずれた眼鏡を戻すか、それとも外してしまうか迷いながら、大和は結局外すことにした。自分が話していた逸話・迷信など急にどうでも良くなってしまったからだ。
「あのさぁ、ミツ……?」
「んだよ! ちんこ当てんな……!」
「お前が足で丁寧にすりすりすりすりしたんだろうが……いや、つーかさ……そんなこんなでお前さんに欲情してる野郎なわけですよ、俺は……?」
「んぐ……う、ハイ……」
「その上、まぁ、取り繕えない程、ミツのこと好きなわけですけど……? 信じられない? 不安になっちゃう……?」
「な、ならない……ちげぇの! オレの中の問題だから! あんたのこと信頼してるしてないの問題じゃなくって」
「……正直、やきもちでモヤモヤしてるミツは可愛いですよ」
ベッドに押さえつけたまま、三月のジャージを下着ごとずらしていく。汗で湿っている尻の間に、引きずり出した自身の物を挿し入れていった。内側は解していないから、付け根を拝借して擦り付けるに留めた。
「……ッ、わかる? バキバキよ、俺……」
「うー……勝手に人の股使うな……」
「人のベッドにちんこ擦り付けてる奴が言うな」
「だ、ってぇ……」
じゃあ、触ってよと肩口に振り返る三月の目が涙目になっている。その様に、更に煽られる。
「ミツのナカの問題なら……その度にミツが安心できるように努力するからさ」
「そ、そっちの努力じゃなくて、ヘンな言い回しするのやめるとかじゃないのかよ!」
「それはー……ちょっと直しようがないかも……?」
「かも? じゃねぇ……んぎっ!」
大和のベッドを使って床ズリしている三月のペニスを掴む。びくっと跳ね上がった三月の股間を良いようにしながら、不満げな三月のペニスも具合が良いように扱いてやる。すると、三月は高い声を漏らしながら、愛らしく身を震わせてくれた。
「つーか……」
三月の股間に物を挟んだまま三月のそれと摺り合わせてやると、気分の高揚の天井が見えてくる。その内、視界が一度スパークして、多分――は、と息を止める。三月を抱き込んだまま絶頂すると、少しだけ笑われた気がした。
三月の先走りと自身の射精で汚れたベッドのシーツと中途半端に脱いでいた衣服の処遇を頭の端に追いやりながら、もう次にはローションとコンドームをベッド下から引っ張り出すことを考えている。
「自分だけイったなぁ?」
「……っせーよ。だから、さぁ」
詰まっていた息を、胸の内から吐き出す。
「これ以上のエロい遣り取り、ないだろ」
汗で湿った服を、今すぐ脱ぎたい。シャツのボタンをぷちんと外す。面倒になって、途中からボタンをそのままに襟から頭を抜いた。
一方、それまで板挟みになっていた三月が、だるそうに仰向けになった。大和の精液で汚れた自分の股を指で拭って、三月はその指先を見る。
「たーしかにぃ」
「お前が天井なんだから、どっしりしとけっつーの!」
「……んーじゃ、とりあえず今はどっしり構えとくか? 早くコレ抜いてよ、ダーリン」
「了解……ハニー」
妬いても可愛いのは事実だが、こじらせる前に言ってくれ。
それは、この姫始めが終わっても覚えていてくれたら良いんだけど……そんなことを思いながら、大和は三月のセーターを改めて引っ張り脱がせてやった。
とりあえずもとりあえずだ、神様も誰も彼も奪えないくらい絡まって離さないようにしよう。これが、当面の大和の抱負である。