温度差
——それさ、氷持ってる手の方が熱くてさ? 溶けて、結局水が伝うだけじゃねぇのかなぁ。
興奮、してんのかな。緊張してんのかなぁ。冷たいカタツムリが肌の上を這うみたい。粘液は残らないけど、水滴が残ってさ。腹の上に、胸の上を、ぬるくなった雫が残って滑って落ちていく。そういうのより、もっと熱くてはっきりした物の方が良いと思うよ、オレは。そんな氷じゃ、オレの中には何も残らないもん。
「くすぐってぇよ、ばか」
だから、遊んでるんだと思って笑い飛ばしちゃった方が良くねぇ? ケラケラゲラゲラ笑っちゃって、あんたのことがっかりさせた方がよっぽど遊びみたい。生ぬるいことなんて必要ないし。
「本当にムードのねぇ七五三だなぁ……」
おう、悪かったなと思う。一応な。だってこんなことしたって、くすぐったいだけなんだもん。直接触りたいのって、オレだけ?
氷を溶かした自分の指をぺろっと舐めた大和さんの手を手繰り寄せて、頬に当てる。
(それに、オレって熱い方が好みだし)
氷に触れてて冷えた指先がじくじくと体温を取り戻していくのを感じながら、こっちの方がよっぽど気持ちいいじゃんなんて思った。
満月みたいにまぁるく製氷された氷で、ミツの肌の上を擽ってみた。ちょっとエロい反応見れるかも、なんて思ったけど、目隠しに掛けてた上着を払って、ミツは「何それ、くすぐってぇよ、バカ」って笑うだけ。
丸い氷なもんだから、ミツの腹の上も、うつ伏せて逃げようとする背中に浮いた肋の影なんかにも転がしてみたけど、全然エロい反応なんかなく……色気もなく、ぎゃははと笑い転げる七五三を水浸しにして、それをTシャツで拭って溜息ひとつ。
元気なのはかわいくて魅力的ではあるけど、期待したのはまた別の顔なんだよなぁ。
満月をすっかり溶かしちまった自分の手は、ひんやり冷え損で、はぁって息を当てて指先を舐める。
もうちょっと、もうちょっとだよ。肢体を震わせたり、ぴくって跳ねたりさ、甘ったるい吐息吐くふりだって良いんだよ。そういう顔も見せてくれても良いじゃん。
(良いけどさ、別に)
でもなんか、いつも通りじゃさ、俺のジツリョク不足みたいで、胸の中が——がっかりじゃないけど、しっかり落ち込むわけで……あ、指冷たい。感覚が鈍い。
「大和さん、手」
「ん」
あっためてた手に、ミツの指が絡まってくる。やんわり引き寄せられて、ほっぺたに当てて、ちろり見上げられた。
(あったか……)
こんな体温に氷を当てたところで、芯のどこにも届きやしないのかもしれない。
(あったかいなぁ……)
自分じゃ温めようのなかった指先が、ミツのほっぺたに触れた所からじわじわ温まっていく。
ぽかぽかだなんて色気も何もない擬音が頭の中に浮かんでは消え、浮かんでは消えしている内に、俺はぐんにゃりミツの上に倒れ込んだ。
落ち込む気持ち半分、温くて癒される気持ち半分。あーあ、でもちょっとは雰囲気あることやらせてくれたっていいのにさぁ……なんて思いながら口をもごもごさせた。
(ミツのこと気持ちよくしたいのに)
かっこつかなくて不甲斐ない上に情けない俺のことは、あったまって溶けちまったとでも思っていてほしい。