盲愛SERVICE ROOM



 ボディクリームの香りが立ち上るしっとりとした肌に顔を埋めている。オーバーサイズのパジャマの手触りが良くて、大和は三月の背中をぎゅうと掴んで深呼吸をした。
 どこで買ってきたんだろう。それとも貰い物だろうか。可愛いし、柔らかいし、最高の気分だった。
「あー……」
「何……吸ったり吐いたり忙しいな……」
「これ、クセになる……」
 三月のパジャマを開くだけ開いて、胡座をかいている太腿に頭を乗せる。
 ボタンを外して腕に引っ掛けているだけの大和のパジャマを、三月が背中から引っ張った。ぐっと引かれて、大和の肩甲骨が動く。
「大和さん、脱がない方が好きだったりする?」
「あーいや……」
 顔を上げて、三月の喉元を見た。こてんと首を傾げた三月が大和の方を見ている。
 パジャマのボタンを外しているので、胸筋も腹筋も、臍も、一直線に見えていた。どこからどう見ても男の体なのはわかっていたし、風呂に入った時だって感じることは同じだ。今更、脱ごうが脱がなかろうが、大和には関係なかった。
 三月のだほっとした袖から、指が覗いてる。その指だって、筋張った男の手だった。ズボンの裾からは立派なくるぶしが見えているし、三月は体格のわりに足もごつごつしている――そう思いながら、ズボンを引っ張る。脱がしてみると、膝も脹ら脛もその輪郭を主張していて、運動部でも頑張っているんだろうなと思えた。
 じいっと三月のヒラメ筋を眺めていると、元より傾げていた首を更にぐぅっと傾けて、三月が眉を寄せた。
「あ、あのさ……もしかして、見えない方が良い?」
「え?」
 足首まで下ろされていたズボンを、三月が無理矢理引き上げる。大和は、折角下ろしたそれを元の通りにされて、「あ、あ」と声を上げた。
「なんで……」
「だ、だって、大和さん一々固まるから……! オレ、脱いだらわりとゴツゴツしてるし、見えない方がいいのかなって……なんか、あれかな、ナイトローブみたいなの被った方がいいかな!」
 へらっと笑った三月の頬を、両の手でぺちんと挟む。むっと突き出た唇にキスしようとして、そのあまりの愛らしさに止めた。
「あのさ、それじゃあミツが見えないんだけど」
「み、見えたら嫌かと思って」
「お兄さん、まだ嫌も良いも言ってないんですけど」
「だ、だって、黙ってたらわかんねぇんだもん!」
「じゃあ言っちまうぞ。いいのか」
 むに、むに、と三月の頬を摘まみながら言う。三月の瞳が、不安そうに揺れた。
 ――大体、さ。「あっためて」って散々言ってたじゃん。自信あったんじゃないのかよ。それとも……
(やらしいこと考えてたの、俺だけ……?)
 三月の「あっためて」は、そのままの意味だったのかもしれない。一緒の布団で寝て、ぎゅっと抱いて、温め合って……それでも、それだって良いんだけど、と大和は肩を落とす。
「筋肉、滅茶苦茶エロい」
「うぐ……」
「でも、パジャマも触り心地良くて幸せ……脱がすの勿体ない……かわいい……」
「あ、あっそう」
「ミツの方こそ、良いの? ケツ揉まれたり、吸われたり、吸ったり……まさぐったり、入れたり抜いたり……? されても良いと思ってんの……」
 大和がローなテンションのままでそう問えば、三月はぱしぱしとゆっくり瞬きをした。あまりにも丁寧に瞬きをするから、長い睫が音を立てそうだった。
「考えてなかった……」
「……俺は考えてたよ」
 どうせならもう白状してしまおうかと、体を仰け反った。ベッドに後ろ手を突いて、少し嘲るみたいに言う。
「キスしたいなーって思ってた。ミツのことあんあん言わせるの想像して抜いたこともあるし、匂いでも一々興奮するし……さっきもしたけど」
 ぽかんとしている三月の胸筋の中心をぴっと指でなぞって、溜息を吐いた。
「だから、エロいんだよ、これも」
 自分のことを指して言われていることをようやく自覚したのか、三月の顔にゆっくりと赤みが増していく。鎖骨から上がぽかーっとピンク色に染まったかと思うと、パジャマの袖で口元を覆ってしまった。
「だから、風呂であんなことされたら堪んないわけ。お前さん、わかっててやってた?」
「それは……」
 透けた琥珀色の瞳が、大和を上目遣いに見る。
 またそういう態度を……と思っていると、口を覆ったままの三月が、ゆるっと目を細めた。
「あんた、やけに可愛いと思ったら……一生懸命我慢してたんだ?」
 脱ぎかけのズボンのまま、三月が膝立ちになる。後ろ手を突いて仰け反っている大和にずりずりと近付くと、肩に手を突いてそのまま体重を掛けてきた。
「ん……?」
「言ったろー……我儘言ってる時の大和さんの方が好きだってさぁ」
 ただでさえ可愛い声が、ねっとりと舌足らずに囁いてくる。
 掛けられる圧に耐えかねて、大和がぱたんとベッドに倒れ込むと、三月が大和の腹に跨がった。
 脱ぎかけのズボンをするっと脱いだ三月は、パジャマをご丁寧に肩からずらす。
「……ストリップ?」
「おっさん……おっさん過ぎて、たまに感心するわ……」
「そりゃどうも……」
 嫌みにわざわざ礼を言ってやった。すると、大和の上でボクサーパンツを片脚だけ抜いた三月が「褒めてねぇよ」と笑った。一見すると呆れたような、嘲笑ったかのような薄い笑いだったが、それよりも……
(自分で脱いで興奮してんのかな、この子は……)
 大和が三月の様子を観察している間に、三月はさっさと大和のズボンを脱がせる。
 下着を持ち上げ始めていた大和の性器をつんと弾いて「テント……」と呟いた。
「そりゃあ、腹の上で好きな子のストリップが始まったら、テントも張るってもんですよ」
「本当なんだな、オレで抜いたの」
「……んー」
 天井を一瞥する。一応の罪悪感はある。
「ミツは宝石だから、そういう生々しいもん向けたくなかったんだけど……どうせ、俺の妄想なんてさ、俺しかわかんないし」
 見下ろしてくる三月の視線から逃れるように、顔を逸らしてシーツの皺を目でなぞった。
「得意だしさ、そういうの隠すの」
 弁えてる、みたいな顔をしているんだろうなと思った。照明の下であけすけにされる自分の表情を振り返りもしないままでいると、三月が大和の前髪を払って、額を撫でる。
「……今更、我慢しなくて良くねぇ?」
 こめかみの骨にちゅっと吸い付かれ、大和は顔を上げる。曖昧に笑って、首を横に振った。


 ボディバッグのポケットに潜ませていたコンドームを引っ張り出した時、少しだけ三月が不機嫌になった。「どこで使う予定だったんだよ」だとかなんとか……
「いいじゃん、今使うんだから」
 軽薄にそう返せば、大和のペニスを扱いていた三月の手にぎゅっと力が入った。
「いでぇ!」
「でかい声出すなよ。筒抜けるぞー」
「テメェが今、お兄さんのお兄さん潰そうとしたんだろうが……!」
「潰してねぇんだから感謝しろ」
「はぁ? この、暴力チビ……!」
 その暴力チビは、大和のペニスにコンドームを当ててじわじわ広げて被せていく。丁寧な仕事を見下ろしながら、つい口角を上げた。
「わー、単純」
「男はみんな単純なもんだろ」
「普段から単純だと良いんだけどな」
 そう言って、三月は大和に再び乗り上がった。
 勃起している大和のペニスを尻に挟んで、軽く腰を上下させる。感覚を掴んだのか、両の手で尻の肉を開いて、穴を広げた。絆すのに使ったローションが、じわりと垂れて大和のペニスの先を濡らす。
「……入るかな」
「無理すんなよ。別に入れなくても……」
「だっからぁ……」
 我儘言ってる大和さんの方が好き、だそうだ。大和は口をつんと尖らせて、目を伏せる。三月のためを思って言っているつもりなのに、当の三月はそれがお気に召さないらしい。
「ミツん中、入りたいです……」
 よくできましたとばかりに微笑んだ三月が、ゆっくりと腰を落としていく。
 大和の趣味を尊重した結果らしいが、右の太腿にはパンツが引っ掛かったままだ。そこまでの趣味は無いと思う。でも、要素としてあればあったで良い。
 三月の脚の間に飲み込まれていく自分の性器を眺めながら、三月の太腿を撫でる。ぎゅっと先端を締め付けられ、思わず奥歯を噛んだ。
「は、はは……っ」
「ん……」
 寮の中でするからには、三月が声を抑えられるようにと騎乗位を提案したが、あまりにも大和にとって都合の良い景色に、大和はごくんと生唾を飲む。ずるずるとじっくり飲み込まれていくペニスを今すぐ三月の中へと突き入れたい。けれど、その衝動を噛み殺して、今はただ三月の顔を見上げていた。
 悩ましげな表情の三月の眉が、時折ぴくりと跳ねる。結ばれた唇の隙間から淡く漏れる吐息は、触れたらきっと熱いんだろうなと思った。
(色っぽ……)
 可愛いだけじゃないんだよな、元々。
 溌剌さとわんぱくさ、力強さの中には、いけない色気が隠れていて、それを引き出してカメラに納めたい人間もいるんだろうななんて、撮影の合間に思うことが増えた。
「ミツ、今、このへん?」
 三月のペニスは半勃ちのままだったが、その向こうの腹筋の浅い部分を指でなぞる。
「な、なに……」
「今、俺のちんこ、どのへんまで行った?」
 僅かに腰を浮かす。急に内側を擦られ、三月の体が跳ねた。
「お、オイ! うごくなって……っ!」
「あー、このへんかな……」
 三月の下生えをさりさりなぞって、半勃ちになっているペニスの裏筋をじれったく撫でてやる。指で輪を作ってカリ首を扱いた。竿の半ばで手を止める。
「今ねー、こんくらいかな……ミツの中にあんの」
 微細な刺激に目の前で震えている三月のペニスを指で弾いて、大和はへらっと口元を歪めた。
「もっと入りたいなー……なぁ、ミツ、ダメ?」
 我儘な方が良いと言ったのは三月の方だ。中途半端に腰を浮かせている三月を見上げて、大和は出来る範囲で最も狡くさい顔をした。
 途端に、三月が溜息を吐く。顎の下をぐしぐしと擦って、それから親指の節を噛んだ。
「んっ……」
 三月のアナルが、ずるっと大和のペニスを飲み込む。急に激しく動き出した三月に、大和は思わず半身を起こした。
「うおっ!」
「ん、ふ……っ、ぐ」
 自分の親指を銜えて声を殺しながら尻を上下させた三月の肌と、大和のはだがびっちりぶつかる。そこで一旦、三月ははーっと息を吐いた。
 顔を上げさせると、両の目から涙が溢れていた。尻は、大和の物を銜えてびくびくと収縮している。
「……こ、こ……いま」
 三月が腹を突き出して、自分の手で撫でた。
 そのまま、緩く腰をグラインドさせる。大和を挟んで突いている膝が僅かに震えて、かく、かくと痙攣していた。
「入ってんの、わかるよ……」
 ぐずぐずと腰を揺らす三月の目から、はらりと涙の粒が落ちた。
「や、まとさんは……? わかる……?」
 くちゃくちゃと鳴る水音を感じながら、大和は三月の涙を舐め取った。しょっぱい。
 汗で湿った三月の腕が、大和の頭をやんわりと引き寄せる。
「わかる……ミツんナカ、やばい……」
 あったかい、きもちいい、締め付けてくる、そんな言葉を耳元で囁いていると、三月のグラインドがいよいよ早くなってきた。
「ミツ……まっ、て、終わっちゃう……」
「良いよ、は、出せよ……」
 三月に包まれたまま優しく扱かれている内、射精感の昂りを感じて、大和はそっと三月の胸を押した。
「ゴムしてるし……ん、ん……いーよ……?」
 大和は浮遊感の中、三月の背中を引き寄せた。汗でしっとりとしている胸元に顔を埋めて、頭を横に振る。
「ばっか、くす、ぐったぁ……」
 三月の乳首が立っているのを指先で弄くりながら、そのまま腰の動きを止めさせた。
「も、や、やめ……っ」
 乳首をきゅうと摘まんで、埋めていた顔を逸らす。鼻先を擦り付けてそのまま口の先に銜えた。じゅっと吸うと、三月が体を捩って浮かせる。
「ン、ン」
 大和は呼吸を僅かに乱しながら、ぐりぐりと三月の中にペニスの先を擦り付けた。大和から体を逃そうと爪先をベッドに突いていた三月の、その足の先がシーツをきゅっと押して痙攣する。
「んあっ」
 大和のペニスが三月の奥を突き上げた時、三月が背中を反らせて口を押さえた。同時に、三月の内壁が大和の物に甘ったるく絡み付いてくる。切なく締め付けられ、大和は「はぁ」と声を漏らした。背骨がびりびりする。気付けば、三月の内側で射精していた。
 くぐもった三月の声が、大和の部屋の中に落ちる。
「んんん、ぐ、ぅ……」
 二人で懸命に声を塞いで堪えた後、ふらりと目を開ける。視線が交わって、そのままどちらともなくキスをした。疲労感のあまり、ぱたりとベッドの上に雪崩れ込んだ。


「……終わっちゃった」
 どんよりとした表情を下げたまま枕に伏せっている大和の尻を、三月がぺしんと叩く。
「ずっとは入ってらんねーだろうがよ……ケツがふやけるっつーの……」
「そうじゃなくて……違うんだって……」
 気分が落ち込むついでに、頭痛までしてくる。
 大和が額を押さえて蹲っていると、その背中に三月がパジャマを羽織って貼り付いてきた。
「……何」
「大和さん、終わった後は冷たいんだなーって思って」
「……冷たくはないだろ……普通」
 でも、あのオーバーサイズのパジャマは可愛いから見ておこうと思い、三月の方を振り返った時だった。
 三月が着ていたのは、本人が着てきたものではなく……
「三月さん……それはさぁ、それはー……」
 大和のパジャマに袖を通した三月が、これ見よがしに大和に背中を当てて寝そべっていた。
 もうダメかもしれない、甘い言葉とか気の利いた言葉なんてもう出てこない。そんな風に落ち込んでいた気分と頭痛、倦怠感はあっという間に飛び散って、今はベッドの下にある。後で武蔵に吸われてしまえば良い。
「ホンット、甘やかされ過ぎてダメになる……」
 大和ががばっと抱き付くと、三月はわざとらしく低い方の声で「きゃ~」と声を上げた。
 かわいげも何もないそのふざけた態度に逆にそそられて、堪らず大和は三月の体をぎゅうぎゅうに抱き締めたのだった。