もしものちゅーとはんぱなもやもや


 嫌なもん、見た。
 三年の体育祭さ、今年は珍しく、俺なりに一生懸命ってやつ? 頑張ったと思うんですよ。だって、良いところ見せたいじゃん? あっ、大和センパイって、やる時はやるんだ! みたいな、そういう目で見てもらいたい気持ちもあるわけですよ、お兄さんは。
 だからさ、頑張ったわけ。
「ミツ〜、見てたー?」
 自慢じゃないけど、俺は意外と運動ができます。なので、やる気になればリレーで走ったりするわけなんですよ。 
「見てるわけねぇだろ! オレの方が速かったんだから!」
(まぁ、確かに、何故か隣のコースにいたけど)
 何故なら、ミツも脚が速いからです。
 くっそ、なんでミツの赤組より遅く入って来たんだよ、マジで! ハンデがあったら、俺が脚でミツに勝てるわけねぇだろ!
 そんなわけで、お兄さんの良いところは見せられませんでした。おわり。
 それ以外でも、文化部の出し物の手伝いしてたらしくて、ミツは暇な時間がないみたいだった。
 確かに、文化部が看板とか作ってるよな〜くらいの感覚の俺です。
 それも終わってさ? 後夜祭のキャンプファイヤー、それくらいは良い雰囲気になれるんじゃないの? って思ってたわけ。
 そこで、嫌なもんを見ちまった。
「なぁ、あの女の子ってさ」
 しばらく呆然としてた。けど、手を組んでこようとしたクラスの女のお陰で我に返る。腕を逃して聞いた。
 ミツの隣にいる女の子ってさぁ、何部? って。
「え、知らない。うちバスケ部だし」 
「誰か知らない?」
「大和くん、自分で聞けばいいじゃん……ミツちゃんの彼女なんじゃね?」
 ああいう子、気になんの? って言われた。
 気になるよ。だって、ミツと並んでキャンプファイヤー見てさ。
 そこは俺の場所なのに。
「……近付きにくいじゃん、なんか」
 とぼとぼ近寄って行って、その子と話してるミツに、がばって……するのはやめた。ミツの頭をポンと撫でる。余裕のあるお兄さん風吹かせる。
 そうしたら、女の子とミツが近付けてた手を、お互いにちゃって片付けた。
 あ、繋ごうとしてた? やらしーんだ、ミツも男の子だなぁ。あーあ。
 あーあ……嫌なもん見た。
「ミツー、何してんの」
「何もしてねぇよ。火見てただけ! あと、展示お疲れって話してたの!」
「へぇー」
 お疲れって手握るんだ。へぇーと思いながら、ミツの肩を抱く俺。
「何、おっさん、汗臭い!」 
「いや、お前さんだって体育祭出てんだから、ミツもだろ」
 すー、わーって頭の匂い嗅いだら、思いっきり払い除けられた。いつもだったら吸わせてくれるのに。女の子の前ではさせてくれないんだ。へぇー。
 へぇー……
 じっとり、ミツの横顔を見る。キャンプファイヤーに照らされて、橙色になって、肌もちょっと日差しで焼けたのかな。かわいいな。
「……何?」
 俺が来てから、女の子の方は喋らなくなっちゃった。だから、ミツも俺とだけ喋る形になる。
「……いや、かわいいなって思って」
 思ってたことそのまま口に出したら、校庭の砂を投げつけられた。
「うっわ! 危ねぇな、この七五三!」
「うるせぇ! あんたがちょっかい出してくるからだろうが!」
 立ち上がってもう一回砂掛けようとしてくるミツから逃げ出して、そのまま校庭の合間を走ってると、三年から「おい、またイチャついてんのかよー」ってヤジが飛んだ。そうだよ、俺らイチャついてんの。ラブラブだから。
「てっめぇ! 大和さん、マジで許さねぇ!」
 全力疾走する余力がどこにあったのか……本気で突っ込んできたミツを、走り疲れた俺は正面から受け止めて、がっちり抱き締めた。
 ギャラリーが沸いたのが面白くて、疲れて嫌なものまで見た俺は、ヘラヘラ笑いながらミツのことをお姫様抱っこしてやった。
(ああ、多分後で怒られるなー……)
 でもまぁ、知らない女に隣取られてるよりずっといいや。