もしものちゅう…




 ひでぇよな、中二だぜ? 中二で奪われちゃったの、オレのファーストキス。しかも、相手は一個上の野郎でさ。一応、先輩って呼んでやってた。「二階堂先輩」って。でも嫌な顔すんの。嫌な顔っていうか、ヘンな顔。なんでそういう呼び方すんのーみたいな顔。おかしいじゃん? だってホント先輩なんだよ。一個上で、ってさっき言ったか、これは。
だから、オレはずっと「大和さん」って呼んでた。今思ったら、名字が嫌だったのかも。名前呼んでやると、目つきの悪い目を細めて笑ってた。目つき悪いの、目が悪いせいだって思ってたけど、どうなんだろう。
 それで、オレ、思ったんだ。すっげぇバカだと思うんだけど……大和さんって、もしかしてオレのこと好きなんじゃないか? って、バカみたいに思い込んでた。だからさ、決めてたんだ。同じ高校行って、「オレも好きだよ。だから来たんだよ」って、言ってやろうと思ってのにさ、あの人、彼女いんのな。それも一個上の先輩で、高校三年? スタイル良くて、なんかモテるらしい女の先輩で? 先輩の方から告ったらしい。どっちの先輩かって……女の先輩の方だよ。オレ、大和さんのこと先輩なんて呼ばねぇもん。え? 先輩って呼んでやってたって言ったから……って。ああ、そうだったけ?
それは置いといてさ。大和さん、背とかも伸びてんの。ふざけんなよ! オレなんか、中三で止まってるっつーの! なんであの人あんなにデカくなってんだよ!
まぁ、だからさ、オレも遠目で二人のこと見たけど、美男美女カップルってやつだった。だからさ、こんなちんちくりん……って自分で言うのもムカつくけど、オレみたいのじゃ見合わないよなって思ったんだ。え? どっちにかって? どっちもだよ。言わせんなよ、こんなこと。
ちんちくりんじゃないよって……? 丁度良いサイズ、って……うるせぇな。何が丁度いいだよ。オレは気にして……良いからって? 良いから、そんな話、って。そっちが聞きたがったんだろー……オレだってこんなこと話したくねぇよ。
だってさ、言っちゃたら、これって失恋の話じゃん……? こんな、ベッドに寝転がりながら話したくねぇよ。
「美男美女のさ」
おう。
「美男って、お兄さん褒められてる?」
褒めてるに決まってんだろ。丁度良いサイズってああいうさ、ほら、あの女の先輩みたいな感じだろ? 胸も柔らかそうだし、なんていうか、ちょっとエロっぽいし? だから、丁度良いのニュアンスおかしいんだよ、あんた。
「おかしくないでしょ」
おかしいよ。オレは丁度よくねぇもん。窮屈。
「俺にはめちゃくちゃ丁度良いんだけどなぁ」
 それは、
「ミツ抱き締めてるの、めちゃくちゃ丁度良い。俺のおさがりのカーディガン着てくんないの?」
「なぁ、彼女って噂されてたじゃん。あれ、何」
「やきもち?」
「違うっつーの! あんな騒がれてて、彼女じゃないなんて言わせねぇからな……なんだよこれ、浮気?」
 そうだよ、ちんちくりんとはいえ、大の男を抱えてベッドに寝転がってさ、その気ねぇなんて言わせねぇぞ。
「大和さん……?」
「あれはねぇ、ベストカップル賞でお互い賞金手に入れるための、契約よ、契約」
「はぁ?」
ぺらーんと見せられた夏の学祭、ベストカップル賞? 現代においてそれはセンシティブ過ぎねぇか? ああ、わりとふざけてやってる? ああそう……。
「優勝間違い無しだったんだけどなぁ……」
「大した自信だよ……」
「なぁ、ミツ一緒に出ねぇ? 賞金もらってさぁ、引っ越し代にしてぇの」
「……出ても良いけど、男同士じゃ無理じゃねぇ?」
 わりとみんなやってる? ああ、そう……。そういうノリのイベントなのな……。
「気にして損した……」
「なにがぁ?」
 むぎゅって潰される。カーディガンだけじゃなくて、おさがりめちゃくちゃ流してくるけど、絶対着ない。この人、俺の袖がぶかぶかになるの楽しんでるだけだもんな。知ってんだぞ、ヘンタイ。
「大和さん、彼女出来たんだって。気にして損した!」
「なんでー」
「オレも好きって言おうと思ってたから」
「も……?」
「大和さんがオレを好きだったら、オレも好きーって言おうと思って、同じとこ受験したのに」
あ、むぎゅうって、むぎゅうううってされ、おいやめろ苦しいだろうが!
「やっめろ、しぬ!」
「お前さん、今なんて言った!」
「しんだから忘れた」
「はぁ? 死ぬな! 心肺蘇生させてやる!」
「えー、ヤダー……」
 心臓、どきどきしてっから触らないで。心臓マッサージされたらわかっちゃうだろ。
 そう思ってたら、むちゅって、唇当てられた。
「……生き返った?」
「……いや、死ぬだろ」
ベッドで抱き枕よろしくむぎゅむぎゅされてる時点で、オレってもしかしてお人形さんなのか? 一織にも、ぬいぐるみってとんでもないこと言われたことあんなぁ……。
「……死なないで。俺も、好き。好き、大好き」
「……やっぱりしんじゃったな……」
「なんっでだよ!」
 だって、好きな人に好きって言われたら、むぎゅう……潰れる……、いや、そうじゃなくって。潰れる、やめて大和さん。やめないでもいいけど……。
好きな人に好きって言われたら、潰れちゃうだろ、心臓だってさ?